先日のことである。
とある仕事で現場に到着したものの、目算が外れてだいぶ時間が余ってしまった。 仕方がないので、暇つぶしに喫茶店に入ることにした。
「いらっしゃいませ〜」
入り口付近の4人がけのテーブルに案内される。 たいていお一人様の場合、2人がけか、カウンターであるが、持っていた楽器が大きく見えたのか、広い席に案内された。なんか得した気分だ。
ケーキセットを注文して暫しくつろぐ…
別段やる事もないし、これといった読み物もない。 スケジュール帳を読み返してみたりするもすぐ飽きる。
辺りぼんやり見渡してみると、店の奥の方で、新人風のウエートレスが、不慣れな手つきで空いたお皿やグラスを片付けながらテーブルを廻っている。
「あのー、空いた方のお皿をおさげしてもよろしいですか?」
確か、このように言っていたと思う。 そう、少なくとも始めのうちはこう言っていたと記憶している。
僕は以前からウエートレスさんやボーイさん。 所謂この類のサービス業に従事している方々を見る度に思うのである。 自分には向かない、いや出来ないと!どうも若い頃から「接客業」という職種に強い抵抗を感じるのである。
小学生の頃である。食事の時、親父の頭にうっかり麦茶をこぼして以来、自分の意志とは裏腹に何か『とんでもないこと』を、しでかすんじゃないかと。 やってしまいそうな自分がコワイくて、学生時代から、意識的にその手のアルバイトは避けてきたつもりである。
「あのー、空いたお皿の方、おさげしてもよろしいですか?」
さっきよりも近い所でウエートレスの声がする。 はて?なんかさっきと違うなぁ〜。
そうだ!さっきは「…空いた方のお皿…」今のは「…空いたお皿の方…」だったな。 「空いたお皿の方…」ねぇ?なんか文法的におかしい様な気もするが、 意味は通用するし(「…の方」はよけいだと思うが?)まぁ、いいか!近頃の若いもんは…
おっと危ない危ない!
心なしかさっきよりも、お姉ちゃん、セリフが板について来た! 立て板に水の如く流暢にしゃべりまくりながら、てきぱきと片付けているではないの! そんけーしちゃうなぁ〜もぉ〜!
俺なんか絶対カンで、しどろもどろになった挙げ句、頭パニくってお客さまの頭にコーヒーの飲み残しかけちゃうもんに〜!
そんな事を考えながら彼女の仕事ぶりを眺めていたら、とうとうこちら側のテーブルにやって来た。
「あの〜」
『待ってました!』
「空いたおサゲの方おサラしてもよろしい…あれ???‥」
と言ってのけた。
この娘、とんでもないことを!