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  • 2004/9月
    「夜遊び」


  • 2004/3月
    「変なおじさん」


  • 2004/1月
    「仕事始め」


  • 2003/12月
    「今年も大勢の人と
    演奏させていただきました」


  • 2003/11月
    「暇つぶし」


  • 2003/10月
    「最近の若いもんときたら・・・」


  • 2003/9/17
    是方博邦Rock Unit
    宇都宮ライブハウス「エスプリ」にて


  • 2003/8月
    「ベースもいいけど写真もね!」


  • 2003/7月
    「夏の思い出」


  • 2003/7月
    「毒々しききのこを発見」



  • 『仕事始め』
    2004年1月


    この所、毎日のように電車に乗っている。 邦楽維新のリハーサルが立て込んでいるので都内に出向くためである。
    午前中に家を出て、一仕事終えて家路につく頃にはそろそろ日付も変わろうかという時間帯である。
    今日もなんとか無事にリハーサルが終了し、くたびれ果てて電車に乗った。
    あ〜珍しく座席が空いている。 普段はもっと混んでいるのに。 これなら一本待たずに、横浜まで座って帰れそうだ。ラッキ〜!
    僕が着いた席は、車両のコーナーの4人掛けボックスシートで向かいに若い男女、となりには誰も居なかったので、窓側に詰めて座っていたら、発車寸前に、年配の男性が僕の隣に腰掛けた。

    「まもなく発車いたします。危険ですので駆け込み乗車はおやめ下さい。」
    車掌のアナウンスが車内に鳴り響き、ガタンゴトン電車が動きだすと、隣の御人。 もう、ぐうぐうイビキをかいて眠り始めた。
    ああ、このおじさんも疲れているんだなぁ〜。 世の中には自分より遥かに過酷な職業に従事していて、毎日ボロボロになるまで働き、ヘトヘトにくたびれ果てて帰途に着く。 そんな人々は大勢いるのだ。 そしてこの様な生活を何十年も続けていらっしゃる。 『ご苦労さまです!』と心のなかで呟く。
    ガタンゴトン。

    列車の揺れがまるで乳飲み子をあやす揺りかごの様に、心地よい眠りを誘う・・・
    だんだん瞼が重くなり、意識が遠のいていく。
    ついに目を閉じかけようとしたその時、向かいのシートのすぐ後ろにある窓ガラスに反射した隣人の姿が目に写った。 薄ボンヤリと、だがハッキリとその様子を見る事が出来た。

    『出ている!』
    これはいったいどういうことだ!
    もう一度目を凝らしてよ〜く見てみる。
    『やっぱり出ている。』
    僕の目に間違いはない!
    しかもさっきより 『いっぱい出ている。』

    こんなことってアリなんだろうか! 長年電車に乗っていて、色々な奴を見てきたがこんなスゴいのに遭ったのは初めてだ。
    僕のすぐ隣でこんな事が起こるなんて!首をほんの少し横に動かすだけで、その光景を直に垣間見る事が出来るのは分かっている。
    だが、僕の身体は恐怖のあまり固まってしまったらしく、このおぞましいモノを直視するなんてとても出来ることではなかった。
    直視している者は?
    向かいの男女に目をやると、女はうつむいたまま携帯メールのチェックに余念がなく、男はMDウォークマンのヘッドホンを掛けて目を閉じたまま何かブツブツとうわごとの様に口を動かしている。
    お互いに自分の世界にどっぷりと浸っており、今この場で何が起こっているかなんて知るよしもない!
    誰か他に見ている者は?辺りを見回そうにも首が硬直して動かない。 僕のすぐ隣でとんでもない事が起きているのに誰も止められないし、誰も気が付いてない。 ガタンゴトン。

    それにしてもこのまま放っておいていいものなのか?
    けど誰かが気付いたところで、どうなるものでもあるまい。 それとも
    「あの〜もしもし。大変恐縮ですけど、おたくの○○がですね・・・出ているんですけど・・・」
    とこの場でズバリ言ってのけることが出来る人物がいるのだろうか???
    か弱き女性が痴漢に襲われている現場に遭遇しても、見て見ぬふりをキメ込む輩が多いと言われている現代において、車内でタバコを吸っていた女学生に公然と立ち向かったこの私でさえ、尻込みする!
    しかもこれは『夢』ではないのだ。
    ここはやはり寝たフリ寝たフリ、これに限る。
    ガタンゴトン。

    列車が大きく揺れたその時、男の息が少し乱れた。
    『ふごっふごごごっ・・・』
    なんか苦しそうだ。 もう窓ガラスから目が放せない。
    すると男がとうとう目を覚ました。 きっと呼吸がしづらかったんだろう。
    そりゃそうだ!こんな状態で普通に呼吸できるものか!
    なんと男はさして慌てた様子もなく何事もなかったかのように自分の手を『出ている』所にあてがい、『にゅーっ』とそれを押し込んだ
    。 うへー!
    「むにゃむにゃ・・・」
    暫らくするとおっさん、また深い眠りについた。
    ガタンゴトン。

    窓ガラスの観察は更に続く。
    よ〜く見ていると、またジワジワせり出して来ている!どんどん出てくる!ニュルニュル・・・
    あ〜なんとグロテスクなことか!このまま出続けたらどうなってしまうのだろう?今度ばかりは目を覚ましそうにない。
    メールチェックが一段落した向かいの女性が顔を上げた!
    ・・・顔面が著しく引きつる。
    『あなたもとうとう見てはイケないものを・・・』
    女は今この場から一目散に逃げ出したいに違いなかったが、混雑した列車の中ではなすすべがあろうはずもなく、自分の視界から出来るだけ遠ざけようと窓の方に顔を向けたまま動かなくなってしまった。
    若い男は相変わらずブツブツと呪文を唱えている。
    ガタンゴトン。

    再び列車が大きく揺れた。
    『フゴッ・・・フゴゴゴッ』
    おやじの息がまた乱れ出した!
    ニュルニュルニュル!あ〜どんどん出てきたぁ〜!誰か助けてくれ〜!やばい!落ちる落ちる落ちる!入れ歯が〜っ! ・・・完


     

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