コンサルタントの眼

第6回「ウェハ瓦割から15年~
   怒らなくてはいけないこと?」 by 石川 恵美


昨年、スタッフ達に宣言しました。
ここから先、私が怒髪天突くような怒りを持つことは、もう無い!

実は、昨年までの数年間で、サーバ蓄積データの分析を行い、アトリエ イシカワが手掛けた過去のプロジェクトの履歴を整理してきたのだ。
その経過で、”泣いたり笑ったり”したものです、と言いたいところであるが、1年に30回くらい怒るような問題が発生して、その間2回くらい、笑えることがあったりしたことが判明した。
で、果たしてそれは、怒るに値することだったのか? 分析した。
まず、記憶と記録の中でも本当に鮮明な事象から御紹介しよう。


200mmウェハの装置開発時代、複数の会社のSEが動員されて一緒になって開発に携わっていたのは珍しいことではなかった。
最初の合同デバッグで、有る会社のSEが一気にカセットにロボットのアームを突っ込んで、そのままアームを回転、上昇させ…見事なウェハ瓦割をし遂げてくれた。
こんな○○な光景は、後にも先にも、見たことがない。茫然と佇む一同。一瞬にしてアームの先端が曲がってしまった。
「(アーム突っ込む)実行前に、デバッガで止めて、パラメータ確認しようって言ってませんでしたか?」
他社の社員に対してだが、たぶんかなりキツかったと思う。デバッガでbreakする場所を間違えたのか??? 当然逆毛がたっているが、クリーン着着用のため、怒髪表情は伝わらない。
しかしながら、これがきっかけで協力会社にも構造化ソフトウェアの指導を徹底し、弊社の独自技術「The DAIHON」に発展することとなる。 DAIHONで構築されたソフトウェアでは、デバッガでbreakする場所を間違えるミスの発生頻度は1桁以下に抑えられるのだ。
アームとウェハに合掌。チーン…

納期死守必須で、開発者をかき集め、誰もがテンパっているプロジェクトで、とあるメーカの技術部長が決めた方針は、「エラー処理を行わない装置でよい」
絶句、「それでDMの評価や納入検収が完了するとは思えませんが...」こんな○○な指示は、後にも先にも、聞いたことがない。
そして数週間後に、現場担当者は、あちこちの機能単位で、撤回仕切りを行うこととなり、二重の手間がかかることになる。 後年、明白になったことであるが、くだんの部長と一緒に会議に来る課長さんは事前にいつも部長と大喧嘩をし、「ああ、また怒られる...」と嘆きながらこちらに向かっていたとのことだった。 ストレスかけていたのね、ごめんなさい。チーン、合掌…

ソフトウェアをリリースして、問題なく稼働し始めて半年、正常に経過。その後3ヶ月経過し、位置ずれが発生する、とメーカよりクレームが入る。
「いつからですか?」
「3ヶ月前から必ず起こります」
「ハード調整、定数設定その他何か変えましたか?」
「いいえ、何も変えていません」
「おかしいですね、3ヶ月前まで正常に動作していて、ソフトウェアの改訂もしていないのに、位置ずれが発生するなんて」
「ハードを変えていないので、絶対ソフトウェアのせいだと、部長は断言しています。」
絶対、何かある。何か変えているのだ。いったいそれは、何だ?!
いろいろな調査を重ねて、判明した。オペレーションが違う。
オペレータが新人に交代していたのだ。
アライメントの結果を補正する設定手順が抜けている。ゆえにシステム動作は正しい。
目視でみても半分以上焼けてないのテスト露光ウェハを製品用アライメント処理できない報告も「ソフトウェアの不具合」と扱われている。新ソフトウェアなんかリリースしてないぞ、どうなっているんだ?...
しかしながら、これがきっかけで装置ログの相関性データ収集ソフトウェアを検討し、弊社の独自技術「Barbarella」に発展することとなる。

アトリエ内部にも実は、あった。
処理中にハングしたアプリケーションの原因調査時、「コマンド表を出しなさい」と言ったら、リーダ格以下3人フリーズ、なんと持ってくるのを忘れただと?!絶句、いやマスクしながら怒号。
「君達、一体何しに来たんだ?!」
その後の顛末は、怒りすぎてか、脳が拒否したのか、記憶が無い。クリーンルーム内装置間通路は、とても狭い。アトリエ イシカワのネーム入りクリーン着の輩が装置の横に3人も立たされていては、邪魔でしょうがないが、たぶん、しばらく小学生のように立たせたままだったかもしれない。 心の中で顔面パンチ3連発。
そして、これがきっかけでプロジェクト・マネージャは、プロジェクト・リーダの行動指針を作成し、プロジェクト管理手法を検討し、弊社の独自技術「アトリエ イシカワ メソッド」に発展することとなる。

約10年が経過して省みた。そして、そこまで怒らなくてもよかったんじゃないか?と反省する。
何故なら、その場での解決策としては、当然カンフル剤効果があったかもしれないが、よくよく調べてみると「怒られた事実は覚えているが、何で怒られたか?覚えていない」が5割を超えることが事後調査報告で判明していたのだ。そして、このような仕事の仕方で、生き残っていけるほど甘い業界ではない。気がつけば、このような人達は、全員この業界から消えていた。

トラブルシューティングの現場においてこそ、問題解決手腕、能力が問われる。
当時は、ここで怒らなくては、今後に響く! というくらいの剣幕だったが、業界で良い仕事をする覚悟のない人に怒っても解決にも今後の繁栄にもつながらないのだ、と言うことに、気がついた。
現在でも、驚愕に値する事象は刻々と発生する。だが、その原因となる人達は10年後ファブにはいないのだ。 ゆえに、怒らなくてはいけないことは、ほとんどないのではないだろうか?
では、どうするか? 

ふふふ、それは、アトリエ イシカワ メソッドで、伝授します。


2013/07/27
石川 恵美
    国内精密制御装置メーカ勤務後、1994年アトリエ イシカワを設立。
    専門は、半導体製造装置、検査装置、製造管理システム。
    アトリエ イシカワ代表取締役 装置プロデューサー/生産ラインコンサルタント